001:春
滅びゆく世界未だに滅びざるゆえ新しい春風は吹く
002:暇
ちっぽけな自分大きな空という無意味な比較をしている休暇
003:公園
この恋も義務負うのみか公園の柵をはみ出てゆく白い雲
004:疑
選ばれし者にあらざる退屈と生への疑問とが我にあり
005:乗
肩すくめ通勤電車に乗る一人一人必死に一人を愛す
006:サイン
世の中の人みな善をなさば我ひとりFuck youのフィンガーサイン
007:決
中絶を決めて大罪負いながらそれでも腹が空くから食べる
008:南北
南北の空は玉葱色に暮れ我ツイートす「サヨナラセカイ」
009:菜
一杯で一日分の祖国愛満たす国産野菜のジュース
010:かけら
砂粒も地球のかけらであるとしてしかしかけらは地球ではない
011:青
ヤクルトに一人の青木宣親を。僕にひとりの愛しい君を
012:穏
ゴメンネを受け入れた日の太陽は思ったよりも穏やかでした
013:元気
「どうしたの?元気ないね」と言う君が好きで元気がないフリします
014:接
相武紗季との接点がなにもない人生だけど我慢するのだ!
015:ガール
幸せは、たとえば君がくちずさむガールズロックで歌われし愛
016:館
美術館行きのバスには美術館行く人ひとりもいない夕焼け
017:最近
最近の気になることはいまだもって「○○なう」とかツブヤク君ら
018:京
「一京円あったらなあ」と妄想し35年ローンの家路
019:押
一瞬で押尾学を忘れ去りあしたは何を夢見るテレビ
020:まぐれ
この恋はキセキか神のきまぐれか予定調和か結局夢か
021:狐
手ぶくろを買いに出かける狐らのシングルマザー的な母子愛
022:カレンダー
共依存的友情の二人笑む来年のドラえもんカレンダー
023:魂
魂の不滅、のようなことにつき考えながら足の爪切る
024:相撲
SAMSUNGの液晶テレビに映されしモンゴリアンの相撲中継
025:環
真っ白な君の左手 循環器科待合室に陽は射しながら
026:丸
丸だけで描いたパパの似顔絵と三角で描くママの似顔絵
027:そわそわ
「あとで大事なメールするね」とメールされずっとそわそわしてた一日
028:利用
友情を利用している。僕たちは明日の孤独を埋めあうために
029:陰
木陰にてふっと陽が射し真っ白になる短篇の最後のページ
030:秤
天秤座・A型・男・日本人。死とは属性からの解放
031:SF
いにしえのSF映画で描かれしソ連がまだある2010年 ※注1
032:苦
美談とし君が苦しみ語るとき感動しない自由を僕に
033:みかん
もし娘なら名は「みかん」と決めていた。だけどみかんは生まれなかった。
034:孫
ペロの死をまあるくつつむ影つくるあなたの孫の小さな背中
035:金
君んちの壁に金正日の絵が貼ってあっても、明日もあそぼう
036:正義
友情のためには死のう。正義とか神様とかのためではなくて
037:奥
「僕はダメな父親だなあ」とつぶやけば、うんうんと奥さんがうなづく
038:空耳
明日もまだ生きていこうとする僕に空耳だろう父の声する
039:怠
バナナマンライブ傑作選を見ていろんなことを怠けてる夜
040:レンズ
50㎜単焦点レンズの中で君がほほえむのを待っている
041:鉛
鉛筆で描くとき君の唇も瞳も鉛色で塗られる
042:学者
機械論的解釈で愛語る心理学者の娘への愛
043:剥
リンゴ剥く手のぎこちなさそれだけを愛の理由とできた青春
044:ペット
母恋うるものの空から暮れていきぺットショップに子犬は眠る
045:群
群れながら詩人のような人たちがまるで詩みたいなものを書いてる
046:じゃんけん
じゃんけんであいこになればあいこっていう名の君を思い出してる
047:蒸
コンビニにピザまん蒸され東京に冬の星座図どおりの星座
048:来世
来世のことを話している君と明日のことだけ約束をする
049:袋
手袋のかたっぽうだけダイイングメッセージ残すように落ちてる
050:虹
ふるさとに幼なじみは誰もいず虹も知らないビルの向こうに
051:番号
番号で呼ばれることと大差ない記号に過ぎぬ僕の戸籍名
052:婆
いろいろとあって僕には爺ちゃんと婆ちゃんたちの思い出がない
053:ぽかん
ボクよりも池田先生が好きだって君に言われてぽかんとしてた
054:戯
遊戯王カードを売ってTSUTAYAから出てくる子どもらの鼻息よ
055:アメリカ
アメリカがただの遠くの国になり不沈空母に国籍がない ※注2
056:枯
別れうるもののすべてと別れ母ひとり空き地に枯れるたんぽぽ
057:台所
僕が死にあなたも死んで台所からいいにおいすることもなく
058:脳
脳内に解き得ぬ謎は閉じ込めて僕は生きたいから生きている
059:病
病んで死ぬことも自然の姿とし虫かごにカブトムシ壊れる
060:漫画
手塚賞〆切りすぎて僕はまだ漫画をかかぬ漫画家である
061:奴
会えばすぐ昔話をする奴の昔話もなつかしきかな
062:ネクタイ
みながするから僕もしたネクタイは何の役にもたたぬ布切れ
063:仏
仏像がぶつぞう、というシャレ浮かび唇かんで焼香をする
064:ふたご
ふたごには生まれなかった僕たちも宇宙人からみたら似ている
065:骨
歯医者にて撮られたレントゲンで知る僕にも頭蓋骨があること
066:雛
罪というなら罪だろう雛鳥の刺身をうまいと言うことなどは
067:匿名
「リクエストは『アンダルシアに憧れて』」(39歳・匿名希望)
068:怒
怒るべきときに怒って褒めるべきとき褒めること。その難しさ
069:島
今すぐに君にききたいことがある「大島優子」が誰かについて
070:白衣
白衣着た人に囲まれサインする人工中絶手術同意書
071:褪
行儀よく生きる君らに色褪せるおととし死んだあいつの記憶
072:コップ
引き算で命のながさ思うときコップに尽きていくぬるい酒
073:弁
自己弁護以外の言葉持たざりし三十九歳にて候えば
074:あとがき
摘まれちゃう野花のような、あとがきで台無しになる歌集のような、
075:微
また少し歩こう涙かわくまで微糖の缶コーヒーを飲んだら
076:スーパー
ウルトラやスーパーじゃないただのマンでもときどきは敵とたたかう
077:対
弟と対戦ゲームをするときの兄の瞳に芽ぐむ優しさ
078:指紋
iPod ぺたぺた指紋をつけ探す椎名林檎の「幸福論」を
079:第
僕次第でどうにかなった今日が過ぎどうにもならない明日になった
080:夜
子守歌うたう幸せ うたわれる幸せ夜も空は果てなく
081:シェフ
シェフの名が覚えられないパキスタン料理の店で挨拶されて
082:弾
いつかこの空に弾道ミサイルが飛んで誰かの人生終わる
083:孤独
孤独にはなりたくないが一人にはなりたい 旅の理由といえば
084:千
千円で行ける限りの遠くまで14歳の海は永遠
085:訛
電話でも、もう高松の訛りなく話す七十五歳の母は
086:水たまり
プルシアンブルーの空は映らないアメンボいない水たまりには
087:麗
網膜にやさしく映るものをのみ綺麗に詠う君らの短歌
088:マニキュア
いたずらでマニキュア塗られ落とし方わからずずっとグーの左手
089:泡
泡ならば消えてしまえばそれまでで人だといろいろ面倒である
090:恐怖
一人で死ぬかみんなで死ぬかの違いのみ恐怖の大王が何であれ
091:旅
赦せないことを赦して夕まぐれ一人の旅をすこし二人で
092:烈
北斗神拳奥義天将奔烈でぶっとばしたいあいつとあいつ ※注3
093:全部
行き先も形も全部吹く風に委ねてもなお雲は自由だ
094:底
空にあるものみなすべて空を去るたとえば湖底に沈んだ夕陽
095:黒
カレンダーの数字が黒の日も青の日も赤の日も君と生きる日
096:交差
古いものから去ることをルールとし夏と冬とが交差する秋
097:換
乗換の駅のホームですれ違う一期一会に満たない出会い
098:腕
両腕で閉じこめている愛があり解き放つのもまた愛であり
099:イコール
血の愛とそうでない愛イコールで結び 血の色している朱印
100:福
さみしさを満たした湖のさざ波に浮かぶボートのような幸福
※補足
注1)『2010年宇宙の旅』のこと。1982年の本なので、1991年のソ連崩壊のことは当然、想定されていない。
注2)かつてアメリカと超仲良しだった中曽根総理が、日本をさして言ったとされる言葉。日本列島は不動だが不沈(島なので)の、米軍所属の航空母艦(基地)であるといったような意味で使われる。ただし、これは実際には中曽根総理の発言ではないらしい。世代的に知らない人がいると思われたのであえて補足。
注3)北斗の拳に登場するラオウの使う奥義。闘気によって触れずして相手の秘孔を攻撃する技。かっこいい。
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