一篇の詩のフレーズを愛してる彼は世界を間違いと言う
酒瓶に残る昨日の愚痴である。敗戦我らに負わせし者へ。
異教徒の祈りなのかもしれなくて(世界に神のいない平和を)
民族のために流れた血の酔いは醒めて神とは亡霊のごと
鳩の血も赤いと知った我なりの純心空がはじめて青い
人は死ぬものなのだという証明を夜のニュースは繰り返しする
落書きの二言三言に恨まれし国家と教師と恋人のこと
軒先に縛られている新聞に少し昔のこの国を見る
幸せにしてやる、という傲慢に溺れて恋が窒息をする
愛らしき女の化粧が冗談に見えて醒めつつ枕のニーチェ
生きながら愛玩道具としてここにある君叫べ、自由!自由!と
うたたねに消し忘れてた枕元昔は泣いた本を手にとる
ふるさとへ行ける切符を買うだけの小銭のみ手に未来まで行く
鳥啼かぬ朝口さびしコーヒーの熱のみ我の欲するすべて
怪訝なるまなざしをもて子を抱ける母親失せし何かを探す
墓石の下丁度良く折り畳み風にはならぬであろう魂
喜びを束の間捧げてくれし子の行く末地蔵の持つかざぐるま
弟はヒヨコの形をして我の手の上にいた縁日の夜
翼では飛べない空のあることを知って天使は傍らにいる
飢えることはなき人生にどれほどの真実ありやと問われ、新年。
明日を繋ぐために働く父である。今日を紡いでいる母である。
灰色の空、労働は正しいと言えた時代の東京の空
明日あそぶ指切りしようとおさな子のせがむ瞳の中の父親
飢えることはなき人生にどれほどの真実ありやと問われ、新年。
これもまた人生なのさと吹きながらぼんやり酒が妻の愚痴聞く
海原に紙の小舟で旅をする。母を求める旅ではないが。
吊革の左手我が何者であるか教えて指先赤し
名前など記号に過ぎぬ。戸籍名をさらさら紙に書き捨てている。
明け方に咳き込む子の背をさすりつつ露つく窓の向こう冬見ゆ
ぐるぐると鉄道模型を追いかけて五歳の秋の一日が過ぐ
がたごとと電車は揺れて我らみな少し昔の街へ行きたし
11の子にImagineの詞の意味を語り聴かせる大人のふりで
右側を追い越していく銀色に今日初めての空を見ている
夜誰も濡らさぬ雨のさわさわと風に波うつ音だけがする
バス停の吸い殻入れにくすぶれる小さな赤がひとつきり赤
「中国は悪い国だ」と言う子らを叱る。博愛主義者のふりで。
旅人の歩幅で砂利に音立てる我は世界にとっての異物
透明になるため異物を排除する。水は空より青くあるため。
そう生まれざるゆえそれを愛してる、君と子どもと、それから空を。
何回も書き直してはその心紙に吸われて枯れる気がする
鳥籠は錆びつつ空を閉じこめる愛しき母の悲しまぬため
我が手には馴染まぬ善を馴染まぬと素直に言える孤独を恋す
子と遊び妻をなだめて夜起きて願うのはただ明日のあること
この国を救わんとする自惚れがひとりよがりのドグマに恋す
据えかねてつまらぬことをつまらぬと呟いたあとの消えぬさみしさ
ブランコに乗りて見つめる知らぬ家の揺れる灯りは幸せであれ
我が胸にあるつぶやきに柔順な我は我より新しきかな
青春はファウルボールを吸い込んで暮れ行く空の真下にはある
指先の感覚のみが鋭敏となる触れるべき何もなき夜
卑怯未練皮一枚に閉じ込めば人体模型の面のみ柔し
帰る家のある夕焼けと、帰る家のない夕焼けと、暮れなずんでいる
教科書の落書き素直な憎しみと素直な愛の青春詩集
争いの果てに得たもの。死んだ敵。生きている敵。あした死ぬ敵。
手慰みの折り鶴子の手に乗って飛ぶ懐古主義者の空より遥か
断続の歴史にぽつり今日の日を浮かべ流れてゆくほうへ行く
うつむくな。未来は使い古されて、壊せる明日も無けれど。少年。
時の果てを僕は知らないゆえに時は果てないものと思って生きる
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