君が代を詠みし人見し国のこの憎しみ問ひし御世を予が見き
きみがよを よみしひとみし くにのこの にくしみとひし みよをよがみき
味噌の香を鼻腔に満たしわずかなる希望プロレタリアの朝靄(あさもや)
精霊信仰(アミニズム)的悟りにて一切を意味で満たせる少女の瞳
誰の目にも馴染まぬ宗教施設建ち故郷木っ端微塵となりぬ
唯一の真実ありと言う友と議論し友を失いしこと
父のない少年哀歌をつぶやいて玉葱色に枯れる夏空
同情と愛を分かてずアスファルトに死する雀の雛を雨撃つ
オブジェクト指向世界観において予定調和の愛破れたり
道端に連なる点字ブロックの行く先。善意の限界点まで。
監視社会夢見て子どもの手のひらに握らす「@」の視線
セオリーに急かされている少年の未来をしばし拒むブルース
「完全な透明」という命題に果てない空は何色をする
羽化を待つ蛹ひとつの成し遂げる転生。空を泳ぎたいから。
磨りガラス越し叙情的朝来る一切皆苦般若波羅密(スベテハクデアルコトヲリカイス)
「永遠の愛」今日もまた破られてこの世に法廷闘争続く
我もまた金欲しき者飽くこともなくやすやすと今日もへつらう
彼岸菊手向ける墓地のなきままに日本に八月革命起きず
一片の罪も帯びざる者として他人を責めし後の虚しさ
蔑みの文字をゆらめかせてそよぐ通勤電車の風が冷たし
旅の空羽ばたくかもめになりたくて口笛風の音より高く
航跡の白さ天地の何よりも白く世界を二つに分ける
上から読んでも下から読んでも同じ…というのを短歌で書いてみました。
なるべく短歌らしい雰囲気になったものを三首発表します(たいてい謎の呪文のようになってしまうので…)。
◆
往く波はもと月通う恋の身の憩う夜書きつ友は皆悔ゆ
ゆくなみは もとつきかよう こいのみの いこうよかきつ ともはみなくゆ
◆
◆
消えゆきて笑みのみ残す別れなれ交わすこの身の見えて消ゆ駅
きえゆきて えみのみのこす わかれなれ かわすこのみの みえてきゆえき
◆
◆
遠ざかるげに悲しげと見切る春君とげし中逃げる風音
とおざかる げにかなしげと みきるはる きみとげしなか にげるかざおと
◆
◆
冬の待つ庭の富むなり朝顔がさ有りなむとの我(わ)に妻の云ふ
ふゆのまつ にわのとむなり あさがおが さありなむとの わにつまのゆふ
◆
一篇の詩のフレーズを愛してる彼は世界を間違いと言う
酒瓶に残る昨日の愚痴である。敗戦我らに負わせし者へ。
異教徒の祈りなのかもしれなくて(世界に神のいない平和を)
民族のために流れた血の酔いは醒めて神とは亡霊のごと
鳩の血も赤いと知った我なりの純心空がはじめて青い
人は死ぬものなのだという証明を夜のニュースは繰り返しする
落書きの二言三言に恨まれし国家と教師と恋人のこと
軒先に縛られている新聞に少し昔のこの国を見る
幸せにしてやる、という傲慢に溺れて恋が窒息をする
愛らしき女の化粧が冗談に見えて醒めつつ枕のニーチェ
生きながら愛玩道具としてここにある君叫べ、自由!自由!と
うたたねに消し忘れてた枕元昔は泣いた本を手にとる
ふるさとへ行ける切符を買うだけの小銭のみ手に未来まで行く
鳥啼かぬ朝口さびしコーヒーの熱のみ我の欲するすべて
怪訝なるまなざしをもて子を抱ける母親失せし何かを探す
墓石の下丁度良く折り畳み風にはならぬであろう魂
喜びを束の間捧げてくれし子の行く末地蔵の持つかざぐるま
弟はヒヨコの形をして我の手の上にいた縁日の夜
翼では飛べない空のあることを知って天使は傍らにいる
飢えることはなき人生にどれほどの真実ありやと問われ、新年。
明日を繋ぐために働く父である。今日を紡いでいる母である。
灰色の空、労働は正しいと言えた時代の東京の空
明日あそぶ指切りしようとおさな子のせがむ瞳の中の父親
飢えることはなき人生にどれほどの真実ありやと問われ、新年。
これもまた人生なのさと吹きながらぼんやり酒が妻の愚痴聞く
海原に紙の小舟で旅をする。母を求める旅ではないが。
吊革の左手我が何者であるか教えて指先赤し
名前など記号に過ぎぬ。戸籍名をさらさら紙に書き捨てている。
明け方に咳き込む子の背をさすりつつ露つく窓の向こう冬見ゆ
ぐるぐると鉄道模型を追いかけて五歳の秋の一日が過ぐ
がたごとと電車は揺れて我らみな少し昔の街へ行きたし
11の子にImagineの詞の意味を語り聴かせる大人のふりで
右側を追い越していく銀色に今日初めての空を見ている
夜誰も濡らさぬ雨のさわさわと風に波うつ音だけがする
バス停の吸い殻入れにくすぶれる小さな赤がひとつきり赤
「中国は悪い国だ」と言う子らを叱る。博愛主義者のふりで。
旅人の歩幅で砂利に音立てる我は世界にとっての異物
透明になるため異物を排除する。水は空より青くあるため。
そう生まれざるゆえそれを愛してる、君と子どもと、それから空を。
何回も書き直してはその心紙に吸われて枯れる気がする
鳥籠は錆びつつ空を閉じこめる愛しき母の悲しまぬため
我が手には馴染まぬ善を馴染まぬと素直に言える孤独を恋す
子と遊び妻をなだめて夜起きて願うのはただ明日のあること
この国を救わんとする自惚れがひとりよがりのドグマに恋す
据えかねてつまらぬことをつまらぬと呟いたあとの消えぬさみしさ
ブランコに乗りて見つめる知らぬ家の揺れる灯りは幸せであれ
我が胸にあるつぶやきに柔順な我は我より新しきかな
青春はファウルボールを吸い込んで暮れ行く空の真下にはある
指先の感覚のみが鋭敏となる触れるべき何もなき夜
卑怯未練皮一枚に閉じ込めば人体模型の面のみ柔し
帰る家のある夕焼けと、帰る家のない夕焼けと、暮れなずんでいる
教科書の落書き素直な憎しみと素直な愛の青春詩集
争いの果てに得たもの。死んだ敵。生きている敵。あした死ぬ敵。
手慰みの折り鶴子の手に乗って飛ぶ懐古主義者の空より遥か
断続の歴史にぽつり今日の日を浮かべ流れてゆくほうへ行く
うつむくな。未来は使い古されて、壊せる明日も無けれど。少年。
時の果てを僕は知らないゆえに時は果てないものと思って生きる
多摩川のひろき川面を赤らめている秋つねにふるき秋なり
寝に帰る人々の町わが多摩のすみかに黒き夜ばかり見る
そのひとつひとつの欺瞞は寒風に散り裸木となるプラタナス
角川全国短歌大賞(二首投稿)の一首は住んでいる地域について詠むということで、いろいろ考えてます。最初、この賞には投稿しないつもりでしたが、今月28日の締め切りまでに良いものができたら投稿しようと思います。
なかなか、「地域について詠もう」と思うと難しいです。
※上記三首は今回の投稿とは関係ない歌です。
今僕が住んでいる地域は、東京多摩南部。古い言い方かもしれませんが、都心のベッドタウンとして開発された比較的新しい町です。勤務先は東京品川で、約1時間30分かかります。朝7時に始業なので、冬は夜明け前に出て、帰ってくるころも夜。二首目はそのようなことを考えた歌です。
我が家の周辺にはプラタナスの並木道があり、最寄り駅の駅名も、プラタナスの和名にちなんだものになっています。プラタナスは夏の間は広く大きな葉をたくさんつけますが、冬になる前に葉を落とし、細く、言わば貧相な幹と枝をあらわにします。
学問、とくに哲学を象徴するというこの木。季節によって様相を一変させるこの木がなぜその象徴となるのか。毎年冬になると、この木を見て考えます。
三首目はそのような歌です。
最近のコメント